オレキシン 胃酸分泌 食欲増加させる神経ペプチドホルモン
オレキシン は神経ペプチドで、アミノ酸33個からなるオレキシンAとアミノ酸28個よりなるオレキシンBが存在します。その特異的受容体は2種類でオレキシンAに特異性が高いオレキシン1(OX1)受容体と、オレキシンAとオレキシンBに同程度の親和性をもつオレキシン2(OX2)があります。オレキシンは脳にのみ発現し、しかも脳内でも外側視床下部の神経細胞でのみ産生される特徴があります。この外側視床下部は摂食中枢であることから、食欲誘導分子である可能性が提唱されました。外側視床下部は摂食のみならず、自律神経系の上位中枢としても知られているため、脳内の内因性オレキシンAが胃酸分泌調節に関与することも明らかになりました。
これまで食欲を増加させかつ胃酸分泌を亢進させる神経ペプチドは報告されておらず、中枢神経系に作用して胃酸分泌を促進する神経ペプチドとしては甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotopin-releasing hormon:TRH)がありますが、TRHは食欲亢進作用をもっていません。すなわち現時点ではオレキシンAが唯一食欲亢進と胃酸分泌亢進作用をもつ神経ペプチドであるといえます。外側視床下部のオレキシンA神経細胞は低血糖によって活動が亢進することも明らかになっています。
オレキシンの機能は、食欲亢進、胃酸分泌刺激以外にも胃運動亢進、膵液分泌刺激、睡眠―覚醒調節、歩行・骨格筋緊張の抑制、身体活動性に影響を及ぼすことが示唆されています。
食欲、睡眠、身体活動がいずれも低下した状態は臨床医学的側面からは抑うつ状態と捉えることができます。抑うつ状態では消化器症状を合併することが多く、胃酸分泌や胃運動などの消化管機能が低下すると推定されます。オレキシンの作用が減弱した状態は抑うつと消化管機能低下の両者を一つの因子で説明可能になります。
臨床的には、これまでナルコレプシー患者の髄液中のオレキシン濃度が著明に減少していることが報告されてますが、最近自殺企図をともなううつ状態でも脳脊髄液中のオレキシン濃度が減少しているとの報告があります。