飲食物の食道通過が困難となる疾患 食道アカラシア
アカラシア(achalasia)もしくは食道アカラシアは、食道の機能障害の一種で、食道噴門部の開閉障害もしくは食道蠕動運動の障害(あるいはその両方)により、飲食物の食道通過が困難となる疾患です。
食道と胃の接合部を食道噴門部と言います。噴門部は普段閉じていますが、食物が運ばれてくると噴門部の筋肉(下部食道括約筋)を弛緩(しかん)させて胃に送り込みます。食道アカラシアでは、この筋肉の神経に異常が起こり、筋肉の弛緩運動が正常に出来なくなり、噴門部が閉鎖し、食物が通過しにくくなる疾患です。
アカラシアに特徴的な症状は以下のようなものが挙げられます。
・げっぷ、胸焼け、胸のつかえ、嘔吐
食物が食道を通過しないことが原因のため、嘔吐物に胃液は含まれず、食物は咀嚼したままの形状で吐き出されるため悪臭もなく、口臭の悪化も伴いません。逆流性胃腸炎等とはこの点が違います。
・背中の痛み
食道に飲食物が通過しにくくなるため、背筋が圧迫されるという解釈が一般的ですが、末梢神経系の疾患が併発している事による筋肉の凝りという解釈もあります。これも逆流性胃腸炎等との違いです。
・顔面神経麻痺、発話障害
末梢神経もしくは中枢神経の障害が原因と考えられる場合に、軽度の症状が現れる場合があります(日本消化器病学会では「進行性の神経筋疾患」を原因とする嚥下障害を疑う場合に見られる症状、という見解がある)。
・その他
幼少期から、食事中に食べ物がつかえて、背伸びや飲水等で障害を取り除いた経験がある人は、発症率が高いといわれています。アカラシア発症者のほとんどは同様の経験をしており、一般的な確率と有為な差があると言われています。
長期間嘔吐や胸痛が続くと、液体も通らなくなり体重が減少してきます。20〜40代の特に女性に多い疾患で、特に夜間、就寝中に食道に詰まった物が逆流することが多いので、注意が必要です。また、これが原因で気管支炎や肺炎を起こすこともあります。
アカラシアが疑われる場合、「症状」にある内容の問診の他、一般的には以下のような診断方法があります。
1)食道内・口腔内pH検査
アカラシアは胃液の逆流がないのが特徴であり、外形的な症状に反し、食道内及び口腔内pHは正常値になります。
2)食道内視鏡検査
アカラシアは運動障害であるため、初期〜中期の段階では、内視鏡で異常が見られないのが特徴です。症状が重度となると、食道の拡張、異常蛇行が生じ、更に悪化すると潰瘍、腫瘍、食道癌の併発が見られます。
3)食道透視(消化管透視)
希釈したバリウムが食道を通過する様子を観察することにより、症状を判断します。ただし、初期の症状では液体の通過障害が見えにくい場合もあり、診断が難しい。
初期で発見されることが少ないため、初期の症状に有効な治療法は確立されていない。敢えて考えられる治療法としては次のようなものがあります。
・漢方薬(芍薬甘草湯、等)の経口投与
ビタミンB12製剤の経口投与(1.5mg/日 程度以上の大量投与で初期の末梢神経障害の回復に効果)
・カルシウム拮抗薬の投与(血圧降下作用があるため、低血圧の患者や日常生活を送る患者には向かない)
なお、症状が完全回復したという報告はなく、悪化の程度を抑制するために投与を続ける必要性があると言われています。
中程度の症状には、バルーンを用いて、食道を拡張することによって通過障害を取り除く方法がありますが、効果は一時的であり、根本的な治療とは言えません。
重度の症状の場合は、腹腔鏡を用いた外科手術による方法が一般的で、「Heller筋層切開術」と呼ばれる方法で食道の筋肉を開いて通過障害を取り除き、「Dor噴門形成術」と呼ばれる方法で、噴門部からの胃液の逆流を抑制します(食道は胃液を保護する粘膜がないため、噴門部が開いたままだと食道炎、食道癌を併発する)。
ただし、根本的な治療法は未だ確立していないのが現状です。