ATL発症リスク判定 診断キットで事前治療が可能に
成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL)の原因ウイルスはHTLV-1で、ヒトリンパ球DNA中にプロウイルスDNAとして組み込まれ、持続感染し、そのごく一部の患者が白血病を発症します。
ATLは発症するとほとんどに治療効果が認められません。そこで、発症リスクが高い感染者を見つけ、発症前に治療を始められれば、発症を抑制したり重症化を防いだりできる可能性が高まることから、検査時点での発症の危険性(リスク)を判定できる診断キットが宮崎、鹿児島、大分、琉球の4大学などの共同研究グループで開発されました。
潜伏期間が長いHTLV-1は、感染から発症まで平均55年とされますが、定期的な検査を通じ発症リスクを把握すれば、発症抑制や早期治療の取り組みが可能になります。
研究リーダーの森下和広・宮崎大医学部教授(分子生物学)によると、ATL患者の血清に、がん抑制遺伝子とされるTSLC1など複数の特殊なタンパク質が多いことを発見。HTLV-1感染細胞数などを含め、ATL発症にかかわる因子を調べることで、発症リスクを10点満点で点数化する仕組みを開発しました。
これまで、ATLについて、発症の確定診断法は確立されていますが、発症の危険性を判定する方法はありませんでした。森下教授は、この診断キットで発症リスクが高い感染者を見つけ、発症前に治療を始められれば、発症を抑制したり重症化を防いだりできる可能性が高まると述べています。
さらに、ATLの主な感染経路は母子感染と性行為での水平感染ですが、HTLV-1の潜伏期間が長いために水平感染の場合は生涯発症率が低いとされます。このため、感染経路を推定することで発症リスクを区分できる技術も研究中です。