妊娠 に伴う検査値の変化 内分泌系
内分泌系の変化は、妊娠がもたらす様々な生理的変化の主な制御機構です。
1)胎盤性ホルモン
胎盤からヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、エストロゲン、プロゲステロン、ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)などが産生されます。これらのホルモンは妊娠の維持や分娩発来などに重要な役割があります。hCGは妊娠早期から産生が増加し、妊娠8〜10週をピークとしその後減少します。エストロゲン、プロゲステロン、hPLの産生は妊娠が進行し胎盤が発育するにつれ増加しますが、分娩終了とともに急激に減少します。
2)下垂体ホルモン
下垂体前葉ホルモンはプロラクチン、ACTHが増加し、TSH、FSH、LH、GHは減少します。下垂体後葉ホルモンは、オキシトシンは分娩開始後に低下、抗利尿ホルモン(バソプレッシン)は血漿浸透圧閾値の低下により分泌増加しますが、胎盤由来の代謝酵素が徐々に増加するため速やかに分解され、妊娠中の血漿濃度はあまり変化しません。
3)甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンの大半は結合蛋白(主としてサイロキシン結合グロブリン:TBG)と結合して存在し、生理活性をもたないので、妊娠するとエストロゲンの作用により肝細胞でTBG産生が増加し、これと平行してT4やT3も増加します。しかし生理活性を示すFT4やFT3の濃度は変化せず、妊娠によるTBG増加の影響を受けません。ただし妊娠初期にはhCGによる甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体刺激による一過性甲状腺機能亢進症を生じます。
4)副腎皮質ホルモン
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は母体副腎皮質でのステロイドホルモン産生を全般に増加させます。副腎性アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とその硫酸エステルであるDHEASに関しては、これらが胎盤でのエストロゲン合成の前駆体となってかなり利用されるため。血中濃度は妊娠の進行につれて低下します。
5)レニン・アンギオテンシン・アルドステロン
妊娠初期より全身の末梢血管抵抗が低下するため、全般的な活性化が生じ、血漿レニン活性、レニン基質、アンギオテンシン濃度が増加し、副腎皮質からのアルドステロン分泌も増加します。また、腎でのNa再吸収が促進されNa貯留が起こり、循環血漿量・血液量は増加します。