加齢に伴う血液の変遷 赤血球の変化
胎盤に運ばれてきた母体血の酸素を効率よく胎児側に取り込むために、胎児の血中には酸素親和性の強いヘモグロビンF(胎児Hb、fetal hemoglobin:HbF)をもつ赤血球が流れています。しかし、酸素親和性が強いというHbFの性質は、組織での酸素の放出が悪いというマイナス面も併せもっています。そこで胎児は成人と異なる血液の流れ(胎児循環)で酸素需要が高い脳に重点的に酸素を送り込むとともに、体重当たりの血液量を増やし、しかもHb濃度やヘマトクリット(Ht)を増やすことにより酸素が不足しないように対処しています。
正期産で出産した新生児のHbとHtはいずれも成人よりも多いのですが、さらに体重1kg当たりの赤血球の容積でみると成人が25〜30mlなのに対して出生直後の新生児は43.1mlでほぼ1.5倍です。
新生児の赤血球のもう1つの特徴は平均赤血球容積(mean corpuscular volume:MCV)と平均赤血球ヘモグロビン量(mean corpuscular hemoglobin:MCH)が成人に比べて多いことです。
一方、出生して肺から自分で酸素を取り込むようになると血液中の酸素濃度が急上昇し、その結果、動脈血の酸素分圧の低下をセンサーとして腎臓や肝臓から放出されるエリスロポエチン(erythropoietin:Epo)の分泌がストップします。Epoは造血幹細胞から赤血球を産生するために必要な因子であり、Epoの分泌低下を受けて、生後2ヶ月位まで赤血球数・Hb・Htはいずれも生理的に減少していきます。この現象は新生児生理的貧血と呼ばれていますが、正期産児の場合は貧血の症状が出る前に赤血球が増え始めます。
それに対し早産児では、在胎期が短い児ほどEpoの産生臓器が、酸素分圧の低下に対する反応が鈍い臓器にシフトしていて、さらに酸素の供給が低下しないとEpoが放出されなので、赤血球の減少が進行し、頻脈や多呼吸などの貧血症状がでてくることがあります(未熟児早期貧血)。未熟児早期貧血の病態が明らかになったことと、腎性貧血に対する遺伝子組換えEpo製剤が開発されたことから、早産児の貧血予防を目的にEpo製剤が投与されるようになり、貧血はかなり軽減されています。
低酸素刺激によってEpoの生理的な分泌が増加したり、薬剤としてEpoが投与されて赤血球造血が盛んになると、Hb合成材料として鉄分が必要になります。これに対して早産児には鉄剤が投与されるので、鉄不足に陥ることはありませんが、正期児の母乳哺育児で離乳が遅れると、母乳中の鉄分は少ないので、鉄欠乏貧血になりやすい。
1歳を過ぎると、赤血球系の値はほぼ成人値のレベルに近づきますが、学童期までは成人よりやや少なめで推移します。思春期に入って平均的には成人のレベルに達しますが、女性は体重増加に伴う血液需要の増大・食事の偏りによる鉄分摂取不足・月経開始に伴う鉄分の喪失などの要因が重なって、いわゆる思春期貧血を起すことがあります。