高齢者における検査値 蛋白質・酵素・糖質
基準範囲を外れた検査は、異常値として原因を追究しますが、必ずしも治療を要する異常とは限らず、加齢に伴う総合的変化の表れであることもあります。原因不明の場合は経過を追って観察し、基準範囲でも経時的に一方向へ変化している場合には注意が必要です。
1)蛋白質
加齢によりアルブミンは減少し、γーグロブリンは増加傾向を示します。高齢者ではMGUSの頻度が高く、総蛋白(TP)・アルブミン(Alb)・総コレステロール(T−Cho)などは、日常生活行動能力(ADL)の低下に伴い低値となります。特にAlbはADL障害の進展に伴って低下し、値が低いほど(特に3.5g/dl以下)生命予後が悪いとされます。低アルブミン血症である高齢者は薬物療法の際に遊離型薬物が増加するため、薬物の影響を受けやすくなります。
2)酵素
加齢により変化する項目もありますが、判断基準はほぼ一般成人と同様です。ALP高値は骨粗しょう症、γGTP高値は飲酒機会の影響を考えます。高齢者ではCKが軽度の運動で骨格筋から逸脱することがあり、逆に寝たきりの患者では廃用性萎縮をきたしCKは低値となります。転倒や打撲もしばしばみられ、これらが高値の要因となることがあり、CKの上昇が甲状腺機能低下症発見の契機となりえます。高脂血症治療薬(スタチン、フィブラート系薬剤)の服用がCK上昇や横紋筋融解症を引き起こすことあり注意が必要です。
3)糖質
加齢に伴い耐糖能は低下します。この機序として、インスリンの初期分泌の低下と末梢組織のインスリン感受性低下が想定されています。一方、肝臓での糖新生は保たれているため、結果として空腹時血糖は不変か軽度上昇し、糖負荷後血糖値は上昇します。これは若年、高齢を問わす軽症糖尿病患者に一般的に認められる状態であり、高齢者特有の病態ではありません。したがって、糖尿病の診断基
準は、高齢者独自の診断基準や年齢補正は必要ないと考えられます。
4)脂質
男女とも70歳以上では、コレステロールの吸収・合成が低下するため総コレステロール(TC)値は低下します。HDLコレステロール値は男性では全年代でほぼ一定しており、基準範囲下限は30mg/dlと
なり、女性では20歳から45歳までは40mg/dlでほぼ一定しており、その後直線的に低下します。中性脂肪(TG)は、男性では基準範囲下限は全年代で20mg/dlとほぼ一定ですが、上限値は20歳から45歳まで上昇し(110→190mg/dl)、その後低下します。女性では基準範囲下限は全年代で20mg/dlとほぼ一定ですが、上限値は加齢に伴って上昇します(25歳:80mg/dl→65歳以上:160mg/dl)。