シャーガス病 輸血による感染と安全対策
シャーガス病はトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi:T.Cruzi)という原虫によって引き起こされる慢性感染症で、ヒトおよびイヌ、ネコ、アルマジロ等他の哺乳類にも感染する人畜共通感染症です。ブラジル人医師シャーガスにより発見されたことからこの名前が付いています。
T.Cruziはサシガメ(カメムシ目カメムシ亜目サシガメ科の昆虫)により媒介されます。T.Cruziがヒトを含む感染動物の血中に存在する時期に、サシガメが感染動物から吸血するとT.Cruxiはサシガメの腸管内で成長、増殖し脱糞によりサシガメ体内から糞と共に排出されます。T.Cruziはサシガメの腸管内以外の他の部位に移行することはなく、サシガメがヒトに対して吸血を行っても吸血行為自体によって直接ヒト体内に侵入することはありません。吸血されたヒトが掻痒感などの為に吸血部位を引っ掻いたときに、サシガメが脱糞していれば結果的に糞中のT.Cruziを吸血部位にすりこむことになり感染へと繋がっていきます。
その他の感染経路として、T.Cruziを含んだサシガメの糞に汚染されたアサイなどの生ジュースによる経口感染や母子垂直感染も知られていますが、サシガメによる吸血に次いで多い感染経路は輸血です。
土着病としてのシャーガス病の発生は中南米が主で、テキサス以南の米国でも散発しています。
感染初期は侵入部位の腫れや炎症、リンパ節の腫脹などが起こり、発熱、肝脾腫等を引き起こします。これらの症状は数週間で治まり一見治癒したような状態に至りますが、T.Cruziは局所での免疫細胞との攻防を終えた後に血行性に心筋、平滑筋、神経などの親和性の高いん細胞侵入し隠れ潜み、ゆっくりと増殖し感染組織を破壊した後に血中へと移行します。さらに、血行性に他の心筋、平滑筋、神経細胞に感染し、臓器破壊を助長します。これにより数十年後に慢性心筋炎、拡張型心筋症、不整脈、巨大食道(嚥下障害、栄養失調、嚥下性肺炎)、巨大結腸(便秘、腸捻転)などの臓器障害として感染者の約20〜30%に起こるとされています。
日本での輸血による安全対策
献血時の問診によりシャーガス病既往者は献血から排除されますが、この対応だけでは十分ではなく、平成24年7月6日に厚労省薬事・食品衛生審議会血液事業部会安全技術調査会において以下の決定がなされました。
中南米滞在歴
1)中南米諸国で生まれた、または育った。
2)母親が中南米諸国で生まれた、または育った。
3)前述に該当しない献血者で、中南米諸国に通算4週間以上滞在した。
・中南米滞在歴のある献血者の血液は輸血用血液としては用いず、血漿分画製剤の原料とする。
・献血者のT.Cruzi抗体検査は同意を得て研究的に実施し、リスク評価の検討などを行う。