メタボロミクスによる癌診断
メタボロミクスは、有機酸、アミノ酸、脂肪酸、糖などの多種多様な低分子量代謝産物(メタボローム)を対象とした研究です。
生体を構成するDNA、RNA、蛋白質、低分子量代謝産物などの分子を網羅的に解析するゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなどオミクス研究が盛んに行われています。
その中で、最も注目を集めているのがメタボロミクスです。
メタボロームは、いわゆるセントラルドグマの下流に位置することから、さまざまな生体反応の集大成であると捉えらえており、上流に位置するDNAやRNA、蛋白質より表現型に近く、刻々と変動する病態をより直接的に反映している可能性があると考えられています。また、代謝産物は動物種依存性がないことから、疾患バイオマーカー探索とスクリーニング検査の応用に有利であると考えられます。
現在では、質量分析(mass spectrometry:MS)を応用した測定技術が急速な発展を遂げ、MSをメタボロミクスの解析手法として、疾患バイオマーカー探索研究が可能となっています。癌の診断バイオマーカー探索研究が広く行われるようになり、大腸癌、膵癌などの消化器癌に対する血清メタボローム解析により、早期診断に有望なバイオマーカー候補が検出されました。
解析対象となるメタボロームは、約4,000種類存在するとされており、他のオミクス研究よりその数が比較的少なく、さらにMS技術の革新やデータベースの充実、バイオインフォマティクスの発展により、網羅的ノンターゲット代謝産物解析や数百種の代謝産物を対象としたワイドターゲット代謝産物解析が行われています。
メタボロームの多くは、既知の知見が蓄積していることから、結果の解釈にこれらの生化学的知見を利用することが可能であり、医学をはじめ、食品化学、植物科学などの研究分野でもメタボロミクスは広く利用されています。
メタボローム解析は、細胞や組織の代謝産物を網羅的に測定する技術ですが、分析対象となる代謝産物の物理的・化学的性質が多岐にわたっているため、すべての代謝産物を一斉に分析できる決定的な測定法は存在しません。そのため、ガスクロマトグラフィー質量分析(gas chromatography-mass spectrometry:GC/MS)、液体クロマトグラフィー質量分析(liquid chrpmatography-mass spectrometry:LC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(capillary electrophoresis-mass spectrometry:CE/MS)などの分析機器を使い分けて、網羅的解析が実施されています。