出産後甲状腺機能異常症 出産後の女性の20人に1人
出産後甲状腺機能異常症は、妊娠前・妊娠中、甲状腺機能正常だった者、慢性甲状腺炎(橋本病)患者および潜在性自己免疫性甲状腺炎患者(甲状腺自己抗体陽性のみで甲状腺腫大を伴わない)が出産後増悪し、種々のタイプの甲状腺機能異常を発症することをいいます。
妊娠時には種々のホルモンや妊娠時異蛋白が免疫抑制的に作用し、これらに胎児側の免疫抑制因子も加わり胎児の拒絶反応が抑えられていますが、出産後はこれらの抑制が急に消失するため、その「はねかえり」として各種免疫応答が亢進し発症すると考えられています。
病型は次の5つに大別できます。またその95%は一過性の甲状腺機能異常です。
1)出産後3〜6ヶ月より永続性甲状腺中毒症(バセドウ病)を示すもの(4.5%)
2)出産後2〜4ヶ月に一過性甲状腺中毒症を示すもの
放射性ヨード甲状腺摂取率(高値:6.8% 低値:16%)
3)出産後1〜3ヶ月に破壊性甲状腺中毒症を示し、引き続き一過性または永続性甲状腺機能低下症を示すもの(52.1%)
4)出産後1〜2ヶ月に破壊性甲状腺中毒症を認めずに一過性甲状腺機能低下症を示すもの(20.5%)
5)永続性甲状腺機能低下症を示すもの(0.1%)
これらの5型のうち1)と2)の一部は放射性ヨードの取り込みが増加しているものでバセドウ病です。2)の残りと3)4)は、甲状腺濾胞の破壊とその後の修復の程度によってきまり、慢性甲状腺炎(橋本病)の一過性増悪の経過としてとらえることができます。
出産後甲状腺機能異常症の頻度は、産後女性の約5〜7%(約20人に1人)です。抗TPO抗体(またはマイクロゾームテスト)陽性の妊婦の場合、約60%に出産後甲状腺機能異常がおこります。出産後の甲状腺中毒症は、破壊性甲状腺中毒症が多く占め、バセドウ病との鑑別が必要です。