血中M2BPGi測定 肝臓の線維化進展の診断補助
C型慢性肝炎において肝線維化の進展度を分析することは、臨床診断上有用であることが示されており、C型肝炎治療ガイドラインにおいても、治療開始前に肝線維化の進展度を評価することが、投薬の選択における重要な指標となっています。その検査は肝臓組織を採取して行う生検(生体組織診断)が主流となっています。しかし、生検は患者が入院する必要があり、身体的・経済的な側面で患者の負担が大きいことが課題となっていました。そのため厚生労働省は「肝炎研究7カ年戦略」で「線維化の進展を非観血的に評価できる検査法の開発」を提示し、このM2BPGiが開発されました。入院を必要とせず採血のみで肝臓の線維化の進行度を迅速に測定することができるため、ウイルス性慢性肝炎の治療における患者の負担軽減が期待されます。
今回、シスメックス(株)から販売される糖鎖マーカーを用いた肝臓の線維化検査用試薬 HISCL M2BPGi試薬は、肝線維化の進行と相関性が高いレクチンを用いて、変化した糖鎖構造 Mac-2 binding protein糖鎖修飾異性体(Mac-2 binding protein glycosylation isomer:M2BPGi)を捉え、化学発光酵素免疫反応によりM2BPGi量に応じた発光強度を検出する検査技術で、肝臓の線維化の進行の度合いが数値で表示することができます。この技術は、これまでのタンパク質ベースでの検査では実現できなかった、線維化病態におけるM2BPGi表面上の質的な変化(糖鎖構造変化)を捉えることが可能となる点で、より有用性の高い検査と考えられます。
M2BPGiは、肝線維化ステージの進展の程度をカットオフインデックス(C.O.I)で反映されます。肝線維化の状態別(健常人、肝線維化ステージF0F1〜F4)でM2BPGiの測定値(C.O.I)を比較した結果、健常人では低値であり、肝線維化ステージの上昇の程度に伴い有意に高値になり、肝生検検査との一致率でも80%以上を示しました。
慢性肝炎115症例において、既存の肝線維化マーカー(ヒアルロン酸、FIB4、血小板)の結果とM2BPGiの判定結果をROC解析により実施した結果、高い診断能を有していることが明らかになりました。また、肝生検でF4判定された症例に関してM2BPGiは有意に高い診断能を有しています。
ウイルス性肝炎は、日本では約300万人が感染する国内最大の感染症であり、感染した状態を放置すると、肝細胞癌へ進行する可能性があるなど重篤な病態を招く疾患です。独立行政法人国立がん研究センターがまとめた「癌統計情報」によると、日本における2011年の肝細胞癌による死亡者数は、31,800人にのぼり、癌では肺癌、胃癌、大腸癌に次いで4番目に死亡者数の多い癌種となっています。
・糖鎖:糖鎖は細胞表面やタンパク質上に存在する糖が連なった物質。「細胞やタンパク質の衣装」とも例えられる。個々の細胞に特異的な情報伝達や細胞間コミュニケーションなどの役割を果たしている。
・糖鎖マーカー:糖タンパク質に存在する糖鎖の構造変化をターゲットにしたバイオマーカー。
・M2BPGi:Mac-2 binding protein glycosylation isomer(Mac-2 binding protein糖鎖修飾異性体)タンパク質部分が同じであっても、細胞状態の変化に伴って、タンパク質上の糖鎖構造が異なるものを糖鎖修飾異性体という。肝線維化の進行度によってMac-2 binding protein(M2BP)上の糖鎖構造が変化するため、タンパク質部分と糖鎖構造の両方を検出することで、診断マーカーとして利用できる。