膠原病に合併する肺高血圧症(PH)
肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は肺動脈圧が異常に高い状態であり、WHOの定義では「右心カテーテル法による平均肺動脈圧が安静時に25mmHg以上のもの」と定義され、進行すると右心不全をきたす予後不良の疾患です。肺高血圧症は稀な疾患と考えがちですが、自己免疫疾患の代表的疾患である膠原病においては、高率に合併することが知られています。
欧米ではlimited typeの強皮症(systemic sclerosis:SSc)で最も発現頻度が高く、予後も悪いことが知られています。日本においては、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:MCTD)で合併率が高く、MCTDにおいて肺高血圧症は予後を規定する最大の合併症です。また、肺高血圧症は膠原病のみでなく、発生頻度に差はありますが広く自己免疫疾患伴ってみられることが知られています。
・肺高血圧症の診断分類(ヴェニス分類 2003年)
1、肺動脈高血圧症(PAH)
1)特発性肺動脈高血圧症(IPAH)
2)家族性肺動脈高血圧症(FPAH)
3)各疾患に伴う肺動脈高血圧症(APAH)
膠原病性血管疾患、先天性心疾患、門脈高血圧、HIV感染症、薬物・毒物、その他(甲状腺疾患、糖原病、ゴーシェ病、遺伝性出血性毛細血管拡張症、ヘモグロビン異常症、骨髄増殖性疾患、脾摘など)
4)有意の肺静脈または肺毛細血管閉塞を伴う肺動脈高血圧症
肺静脈閉塞性疾患(PVOD)、肺毛細血管腫症(PCH)
5)新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)
2、左心性心疾患に伴う肺高血圧症
1)左心の心房あるいは心室性心疾患
2)左心弁膜症
3、肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症
1)慢性閉塞性肺疾患
2)間質性肺疾患
3)睡眠低換気障害
4)肺胞低換気障害
5)高所における慢性暴露
6)発達障害
4、慢性血栓および/または塞栓症による肺高血圧症
1)近位肺動脈の血栓塞栓性閉塞
2)抹消肺動脈の血栓塞栓性閉塞
3)その他の病院による肺塞栓症(腫瘍、寄生虫、異物)
5、その他の肺高血圧症
サルコイドーシス、ヒスチオサイトーシスX、リンパ管腫症、リンパ節腫脹、腫瘍、線維性縦隔炎などによる肺血管の圧迫
・混合性結合組織病(MCTD)肺高血圧症診断の手引き
1、臨床および検査所見
1)労作時の息切れ
2)胸骨左縁収縮期性拍動
3)第U肺動脈音の亢進
4)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大あるいは左第U弓突出
5)心電図上右室肥大あるいは右室負荷
6)心エコー上右室拡大あるいは右室負荷
2、肺動脈圧測定
1)右心カテーテルで肺動脈平均圧が25mmHg以上
2)超音波心ドップラー法による右心系の圧が右心カテーテルの肺動脈平均圧25mmHg以上に相当
診断:MCTDの診断基準を満たし、1の4項目以上が陽性、あるいは2のいずれかが陽性の場合、肺高血圧症ありと診断する。1の3項目陽性の場合、肺高血圧症疑いとする。
除外項目:先天性心疾患、後天性心疾患、換気障害性肺性心
・膠原病に合併するPHの治療
1、血管拡張薬
1)カルシウム拮抗薬:ニフェジピン、ジルチアゼム
2)PGI2持続静注療法:エポプロステノール
3)経口PGI2薬:ベラプロスト
4)エンドセリン受容体拮抗薬:ボセンタン
5)フォスフォジエステラーゼー5阻害薬:シルデナフィル
2、抗凝固療法:ワーファリン
3、心不全治療(強心薬、利尿薬)
4、酸素療法
5、免疫抑制療法(ステロイド薬、免疫抑制薬)