高感度心筋トロポニンTとトロポニンI
心筋トロポニンの高感度測定系が普及し始めています。超急性期心筋梗塞で偽陰性が出やすかった従来の測定系の欠点を克服し、心不全や心筋炎など、他の心疾患の診断・予後評価への応用も期待されています。
トロポニンは筋収縮を調整する蛋白で、トロポニンTとIは、心筋のみに存在し、心筋が壊死すると血中に流出するため、心筋特異的なバイオマーカーとして心筋梗塞の診断時に広く活用されています。ただし従来の測定系では、低値の測定精度が低く、心筋梗塞発症2〜3時間後のような超急性期や微小の梗塞では偽陰性となるケースが少なくない為、胸痛発症直後に陰性の場合でも、心筋梗塞は否定できず、発症後5〜6時間経過した後の再検査が必要とされていました。
この点を改良したのが高感度トロポニンです。従来法に比べて低値における値のばらつきが少なく、測定精度が高くなっています。例えば、ロシュ・ダイアグノスティックス製の高感度トロポニンT(2009年7月発売)の最小検出限界は0.003ng/mlで基準値(健常人の99パーセンタイル値とした場合)は0.014ng/ml、シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス製の高感度トロポニンI(08年5月発売)の最小検出限界は0.006ng/mlで同基準値は0.04ng/mlです。これらの測定系ではトロポニンの微増が精度高く測定できるため、心筋の壊死範囲が狭く、血中のトロポニン値が微量にしか増加しない超急性期においても、高い診断精度が示されています。
・胸痛発症後の時間経過と心筋トロポニンによる診断精度
藤田保健衛生大臨床検査科教授の石井潤一氏らによれば、高感度トロポニンT(基準値を0.014ng/mlに設定)を用いて、胸痛患者460人を対象に、胸痛発症後3時間以内と3〜6時間で、心筋梗塞の診断精度を検討した結果、発症後3時間以内であっても、感度88.9%、特異度72.7%と、従来、超急性期のマーカーとして用いられているヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)よりも良好な感度を得ています。