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多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は中枢神経の脱髄現象により起こる疾患です。神経は軸索を覆う髄鞘により保護されていますが、何らかの原因により髄鞘が壊れ、中の神経がむき出しになるのが脱髄疾患です。このような現象が神経のあちこちで発生し、時間的、空間的に再発を繰り返しながら進行する原因不明の疾患が多発性硬化症(MS)です。
MSに特異的な初発症状はありませんが、視力障害が比較的多く、球後視神経炎の20%位は多発性硬化症に発展します。MSの全経過中にみられる主たる症状は視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害等であり、病変部位によって異なります。
MSの発生頻度には人種差があり、わが国での発生頻度は人口10万人に対し5〜8人と推定されていましたが、最近の調査によれば約8〜9人と考えられています。欧米諸国では白人の発生率が比較的高く、北欧では人口10万人当たり50人から100人の患者がいるとされる一方、アフリカ系黒人では極めて少ないようです。
MSの平均発症年齢は30歳前後で、小児や60歳以上の老人に発症することは稀です。男女比は約1:2〜3程度で、他の自己免疫疾患同様、女性にやや多い傾向にあります。
MSの発症メカニズムには、自己免疫の関与が強く示唆されており、本症の特徴である脱髄には、自己抗体が深く関与しているためオリゴクローナルバンド(OB)はMSの診断に重要な検査の一つです。
OBはγ-グロブリンである IgGのうち、複数の特定クローンが特異的に増加したもので、正常髄液中では、このような現象は認められません。OBは電気泳動を行うと、IgG領域に複数の明瞭なバンドが認められることから命名され、欧米ではMSにおけるOBの陽性率は90%以上と非常に高いといわれており、2001年にMcDonaldらによって提唱されたMSの診断基準にも記されています。
従来OBの検査方法はアガロースゲル電気泳動法が標準的でしたが、等電点電気泳動法が新たに開発された結果、より高感度にOBを検出することが可能となり、健康保険にも収載されました。診断には、ミエリン塩基性蛋白(MBP)やIgGインデックスが併用されます。
検査材料:血清および髄液
測定方法:等電点電気泳動法
基準値:陰性 バンド数0〜1(バンド数1本とは、血清中には無く、髄液中にのみ検出されるバンドを意味する)
陽性を示す病態:多発性硬化症。ギランバレー症候群、ベーチェット病、髄膜炎・脳炎(細菌性・ウイルス性)、急性散在性脳脊髄膜炎、全身性エリテマトーデス(SLE)などでも認められることがある。
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