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ヒトは気道を介して大気中の酸素を肺(ガス交換)に取り込み、心臓のポンプ作用(循環)で全身に供給する一連の仕組みにより生命を維持しています。特に脳(中枢神経)への酸素供給が維持されることで、呼吸・循環を介する生命の輪が形成されています。この輪において、どの部分が障害を受けても直ぐに生命維持が困難になります。いたがってこの生命の輪が障害を受けた場合には直ちにこの連鎖を立て直さなくてはなりません。
血液ガス分析結果は、この生命の輪における大気中酸素の気道を介した肺への取り込み状態を最もよく反映するものです。
1)換気能の指標:PaCO2
換気能の評価は動脈血酸素分圧(PaCO2)で行います。基準値は35〜45mmHgであり、PaCO2が基準値以下の場合過換気状態を示し、基準値以上では低換気状態を示します。
2)酸素化能の指標:PaO2
酸素化能の評価は動脈血酸素分圧(PaO2)で行います。基準値は空気呼吸下(RA)で85〜100mmHgですが、成人を過ぎると加齢に伴い低下傾向を示します。RAにおいては150mmHgを超えることはなく、酸素化能の評価としてはPaO2が基準値以下では酸素化不良を意味し、60mmHg以下では酸素投与の対象となります。また、酸素投与下における酸素下能の評価は方法が異なります(※参照)。
3)酸塩基平衡異常の指標:pH
塩基平衡の評価はpHで行います。pHの基準値は7.35〜7.45であり、pHが基準値以下でアシドーシス(酸血症)状態、基準値以上でアルカローシス(アルカリ血症)を意味します。酸塩基平衡は、肺と腎の機能バランスでほぼ一定(pH 7.40)に保たれているため、酸塩基平衡異常が認められた場合は、肺と腎のどちらに原因があるかを見極める必要があります。
肺(PaCO2)に機能障害を認めた酸塩基平衡異常を呼吸性、腎(重炭酸イオン:HCO3-/21〜28mmol/l)に機能障害を認めた酸塩基平衡異常を代謝性といいます。それぞれの機能障害にアシドーシス・アルカローシスが存在するため四分類することができます。この四分類にはそれぞれ特有の疾患や病態があるので、血液ガス分析結果よりある程度の絞り込みができます。
酸塩基平衡異常と病態
1)呼吸性アシドーシス(pH:↓ PaCO2:↑ HCO3-:N〜↑)
呼吸抑制薬の過剰投与、脳幹障害、神経筋疾患、ギランバレー症候群、上気道閉塞、睡眠時無呼吸症候群、慢性閉塞性肺疾患、高度の気胸あるいは胸水貯留など
2)代謝性アシドーシス(pH:↓ PaCO2:N〜↓ HCO3-:↓)
糖尿病性アシドーシス、飢餓性アシドーシス、乳酸性アシドーシス、腎不全、下痢、メチルアルコール中毒、サリチル酸中毒、尿毒症性アシドーシスなど
3)呼吸性アルカローシス(pH:↑ PaCO2:↓ HCO3-:N〜↓)
発熱、肺塞栓症、肺水腫、脳虚血、突発性過換気症候群、肝性昏睡、間質性肺炎、肺線維症、肺不全など
4)代謝性アルカローシス(pH:↑ PaCO2:N〜↑ HCO3-:↑)
胃液の喪失、塩基の投与、Cushing症候群、ステロイドホルモン投与、利尿剤投与など
※酸素投与下における酸素化能の評価
最近よく用いられているのがP/Fratioです。これは、PaO2(動脈酸素分圧)/FiO2(吸入気酸素濃度)のことでFiO2に対するPaO2の比です。また、このP/Fratioはoxygenation indexと表記されることもあります。
P/Fratioの評価は、350以上を酸素化能良好、200〜350を要注意、200以下を不良とし、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)や急性肺障害(acute lung injury:ALI)が疑われ、直ちに治療や処置が必要となります。
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