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飲酒によるアルコールの心臓血管系に及ぼす作用は複雑です。通常、飲酒後における循環系の急性効果としては、末梢血管拡張および心拍数の上昇があります。また、心房細動・粗動が出現することがあり、休日飲酒後に一過性心房細動を認めることに注目したholiday heartが知られています。
慢性効果としては、不整脈・高血圧・高脂血症患者の冠動脈疾患リスク低下・アルコール性心筋疾患などがあります。
1)不整脈
連続飲酒後に洞性頻脈となり、完全断酒後に心拍数が有意に減少した患者群では、断酒後の心拍数は1日のいずれの時間帯でも同程度に減少しており、このことはアルコールに反応して一過性に洞性頻脈になるのではなく、アルコール依存症が恒常的な頻脈を惹起していることを示しています。この頻脈は、尿中カテコールアミン排泄量の増加と密接な相関を認めており、このカテコールアミン過剰を反映した心筋応答が心筋の自動能を亢進し、上室性頻拍や一過性心房細動、非持続型心室頻拍といった頻脈性不整脈をおこすと考えられています。また、アルコール依存症患者は若年性の突然死が多いことも知られています。
2)血圧
高血圧の頻度は、飲酒習慣のある人が非飲酒者よりも有意に高く、男性では2〜3合までが用量依存的に増加が認められます。
3)冠動脈疾患リスク低下
高脂血症患者の少量から中等量飲酒は、HDLコレステロールを増加させ動脈硬化を予防するため、冠動脈疾患のリスクを低下させる。これはアルコールの作用に基ずくと考えられます。アルコールは血管内皮でのPGI2の産生を促し、それにより血小板に対する凝集抑制作用が増強されます。また、トロンボキサンA2(TXA2)合成酵素の活性抑制により血小板凝集抑制が起こります。さらに、プラスミノーゲンアクチベータ(PA)を増強させ線溶活性を高め、フィブリノゲンを減少させます。
4)アルコール性心筋疾患
アルコールによる心筋疾患は。長期大量飲酒によって引き起こされる疾患であり、中年男性に多いとされています。病初期から自覚症状を訴える患者はほとんどなく、理学所見や胸部X線も正常な場合が多い。初期変化は、心電図や心エコー検査で発見されることが多く、左室肥大や壁肥厚が認められます。アルコール性心筋症は発症率0.14%でごくまれな疾患です。
アルコールによる循環器疾患のポイント
1)アルコールにの急性効果としては、頻脈性不整脈を呈することが多い
2)アルコールは、高血圧の有病率や発症率を上昇させる
3)適度の飲酒は、冠動脈疾患のリスクを低下させる
4)アルコール性心疾患は、大酒家(10年以上にわたり、ほぼ連日エタノールとして90ml以上を飲酒している)ことが診断のきっかけとなる
5)初期変化は左室肥大が多く、心電図や心エコーによる経過観察が重要である
6)臨床診断は、完全断酒による改善効果と再飲酒による悪化徴候、さらに再断酒による改善効果を確認することが最も確実な方法である
7)完全断酒が治療の大原則である
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