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胃潰瘍、胃癌の発症の多くにヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染が関与していることは良く知られていますが、ピロリ菌陰性であっても胃疾患を発症する患者がいます。これらの胃疾患に関係しているとみられているのが、ピロリ菌ではないヘリコバクターハイルマニイ(Helicobacter heilmannii)です。2015年の日本ヘリコバクター学会で発表された全国調査では、ピロリ菌陰性の胃疾患患者27人のおよそ半数がこの菌に感染していたことが示されました。
ヘリコバクター属細菌は30種類以上が見つかっていますが、ピロリ菌以外で「ヒトの胃に感染するヘリコバクター属細菌」としてはH. heilmanniiの他にH. suis、H.bizzozeronii、H.salomonis、H. felis、H. baculiformis、H. cynogastricusなどがあり、ピロリ菌以外のこれらの菌を総称して「non-Helicobacter pylori Helicobacter(NHPH)」、近年では広義で「ハイルマニイ」(H. heilmannii sensu lato)と呼ばれています。
ハイルマニイの特徴
1)ピロリ菌は通常は霊長類にしか感染しないが、ハイルマニイはイヌやネコ、ブタなどに感染する人獣共通感染症である。
2)大きさはピロリ菌の数μmに対し、およそ20μmと大きい。
3)ピロリ菌は尿素分解酵素のウレアーゼ活性を持つのに対し、ハイルマニイではウレアーゼ活性が弱陽性もしくは陰性でほぼ検出されない。
4)最適な培養条件が見つかっておらず、大量培養が困難。
5)ピロリ菌は粘液層にいるのに対し、ハイルマニイは胃腺腔深部や壁細胞内にも存在する。
6)ピロリ菌は片側にだけ鞭毛があるのに対し、ハイルマニイは両側に鞭毛が付いており移動速度が速い。
7)ピロリ菌は萎縮性胃炎などを引き起こすのに対し、ハイルマニイは萎縮性胃炎を引き起こさない。
ピロリ菌はウレアーゼ活性を持つのでアンモニアを呼気診断できるのに対し、ウレアーゼ活性を持たないハイルマニイは呼気診断ができず、今のところPCR法以外の確定診断法がありません。PCR法による診断を実施できる施設が限られていることや、ハイルマニイの大量培養に成功していないことなどが、研究を進める上でのネックとなっています。
また、ピロリ菌に感染しているとハイルマニイに感染しませんが、ピロリ菌を除菌することでハイルマニイに感染しやすくなるといった、ピロリ菌とハイルマニイが胃内で競合していることを示唆するデータが、国内外から報告されているため「除菌で胃内に菌がいなくなると、他の菌が感染しやすくなる可能性が高まるのではないか」と危惧されています。
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