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一般的にドーピングとは競技に勝つために薬物を使用することと考えられていますが、「ドーピング(doping)」の原語である「ドープ(dope)」の語源は、アフリカ東南部の原住民カフィール族が祭礼や戦いの際に飲む強いお酒"dop"とされています。これが後に「興奮性飲料」の意味に転化し、さらに「麻薬」という意味でも用いられるようになりました。
ドーピングの歴史は古く、既に古代ギリシャ、ローマ時代の勇者がコカの葉を噛んで競技に出場したといわれています。また、1889年にはイギリスで、競走馬にアヘンと麻薬の混合物を与えたことも知られています。
麻薬というとまず「薬物常用」「薬物乱用」といった犯罪行為が思い浮かびます。医学的に必要のない不正な薬物使用という意味で似通った点はあるものの、これらの場合には「Doping」ではなく、通常「Drug abuse」と呼びます。スポーツ競技における不正な薬物使用を特に「Doping」と呼んで区別しています。
薬物以外のドーピング行為の一つに「血液ドーピング」と呼ばれるものがあります。
これは競技直前の輸血によって赤血球を意図的に増量するもので、持久力を高めることを狙いとしたドーピング行為です。その後、エリスロポエチン(EPO)や、人工酸素運搬物質(人工ヘモグロビン、フッ化炭素類)のように、血液を材料とする検査の方がより効果的に検出できるドーピング物質が増加してきたため、IOC医事委員会は2002年のソルトレーク市オリンピックで初めて血液検査を導入しました。
さらに理論的可能性として欧米で議論されているのは「遺伝子ドーピング」です。化学物質を用いるこれまでのドーピングに対して、将来はスポーツ界でも遺伝子操作が問題になると予想されています。
すでに、いくつかのホルモン欠損症に対する遺伝子治療が可能になっており、これを不正に用いて、身体能力を向上させる目的で遺伝子操作が行われる可能性があります。たとえば、難病筋ジストロフィーの遺伝子治療を正常な選手が悪用すれば筋肉増強が可能なことは明かですし、またEPO産生の指令を出す遺伝子情報を組み込んだ無毒化ウイルスをベクターとして選手に感染させれば、赤血球の分化が大幅に促進され、ヘマトクリット値が60%以上に高まることが既にマウスを用いた実験で成功しています。
また、胚の発生過程で筋肉への分化を決定する因子が発見され、その抑制因子であるミオスタチンを抗体でブロックすることによって筋量の増加が可能であるとの報告があり、スーパーアスリートの「生産」さえ、夢物語ではなくなってきています。人間の想像力は、もはや一時的な競技力向上の域を超えて、遺伝子組み換えによる"人間改造"とでもいうべき次元に踏み込んできたわけです。
三菱化学メディエンス:ドーピングの動向より抜粋
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