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社会的に大きな問題となっている疲労の蓄積は、さまざまな疾患の引き金になっています。一般的に用いられる“疲労”という用語は、ストレスなどの影響により身体機能が低下することを示す狭義の疲労と、この疲労を感知する感覚である“疲労感”の両方の意味をもっています。
では、疲労は客観的に測定することができるのでしょうか。近年、疲労の原因であるストレスに関しては、いわゆるストレスの応答因子であるカテコールアミン(アドレナリン)の動態で測定する試みがなされています。これには、カテコールアミンの増加にしたがって唾液中に放出されるクロモグラニンAやアミラーゼを測定するものなどがあり、短時間のストレス測定に有効であることが知られています。
疲労そのものを測定するには、疲労によってもたらされた身体機能の低下を測定する必要があります。疲労の蓄積による身体機能の変化としてよく知られているものとして 1)疲れると作業効率が低下する 2)疲れるとめまいがする 3)疲れると唇に口唇ヘルペスと呼ばれる水泡ができるという現象があります。
1)の作業効率の測定には負荷試験が用いられ、代表的なものにadvanced trail making test(ATMT)があります。2)のめまいは、自律神経のバランス不全によるもので、指先の加速度脈波を測定して交感神経機能を測定する方法がもちいられます。これらの方法は実用化に向けて研究・開発が進んでいますが、1)の負荷試験は測定時の被験者のやる気に影響されやすく客観性に乏しいという欠点があり、2)の自律神経の測定は短期的な緊張によって測定結果にバラツキが出やすいという欠点があります。
3)の疲れると口唇ヘルペスが出るという現象は、体内に潜伏していた単純ヘルペスウイルス1型(HHV-1)が活性化して唇に現れたもので、測定時の被験者のやる気や緊張などに影響されない点で極めて客観的な現象といえます。
ヘルペスウイルスの再活性化によって唾液中に放出されるHHV-6は、就労時間や強度にしたがって増加し、休息によって減少することがわかり、HHV-6が1週間程度の疲労の蓄積に反応するのに対し、HHV-6の近縁のウイルスであるHHV-7は1か月間以上の疲労の蓄積に反応することもわかってきました。HHV-6とHHV-7は、すべてのヒトの体内に潜伏しており、ウイルスの再活性化は唾液中のウイルスDNAをリアルタイムPCR法で定量できます。HHV-6とHHV-7に対するさらに簡便な定量法が開発されれば、より実用的な疲労の測定が可能となります。
さらに、疲労刺激によってHHV-6の再活性化が生じるという現象を手がかりに、疲労の原因となる疲労因子(fatigue factor:FF)とFFを低下させることで疲労を回復させる疲労回復因子(fatigue recovery factor:FR)が同定されおり、今後はこれらの因子をバイオマーカーとした疲労測定も可能となると考えられています。
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