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OXA48型カルバペネマーゼ産生菌は、2012年11月に東南アジアで脳梗塞の治療を受け日本の医療機関に転院した60歳代の男性患者の喀痰や便などから分離された新型の多剤耐性菌です。カルバペネマーゼは、菌が産生するカルバペネム分解酵素のことですが、その中でもOXA48型を産生する菌は、カルバペネムだけではなく、ほとんど全ての抗菌薬に対する耐性能を獲得していることが分かっています。
OXA48型カルバペネマーゼ産生菌とは、抗菌薬のカルバペネムを分解する多剤耐性菌の一種で、2001年にトルコで分離されたカルバペネム耐性肺炎桿菌から初めて確認され、2010年ごろからフランスやスペイン、アイルランド、イタリアなどの医療機関で感染が拡大し、大きな問題となっています。特に、オランダのロッテルダム地域では、98人の患者がOXA48型カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌による感染症を発症し、そのうち27人が死亡しています(2011年8月時点)。最近では米国でも2人が発症し、そのうち1人が肝機能不全と肺血症性ショックで死亡したことが報告されています。
耐性菌が産生するβ-ラクタマーゼには、OXA48型カルバペネマーゼのほかに、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)、メタロβ-ラクタマーゼ(MBL)、KPC型カルバペネマーゼなどがあり、いずれも抗菌薬を不活性化します。
OXA48型カルバペネマーゼは、これまで確認されていたオキサシリンを分解するOXA51型やOXA23型などのOXA型カルバペネマーゼと同じ種類に属してはいるものの、アミノ酸配列の構造は大きく異なり、遺伝的にも別系統です。これらのことから、これまで検出されていたOXA型とは異なる配列が、他の細菌からプラスミドを介して肺炎桿菌や大腸菌へ水平伝播し、広まったと考えられています。
これらの多剤耐性菌の増加を重く見たCDC(米疾病対策センター)は2013年3月5日、OXA48型カルバペネマーゼ産生菌をはじめとして、カルバペネム系抗菌薬への耐性能を持つ腸内細菌科の細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae:CRE)が急速に増加しているとの警告の声明を発表しました。
これを受け、厚生労働省は3月22日に「腸内細菌科のカルバペネム耐性菌について」と題した事務連絡を各自治体の衛生主管部へ送付し、輸入例を契機に国内での感染拡大が起こらないよう、新型の多剤耐性菌に注意を喚起するとともに、院内感染対策の徹底とアウトブレイクが疑われた際の保健所への速やかな報告を呼び掛けています。
現在確認されているOXA48型カルバペネマーゼ産生菌は、患者の皮膚に付着したり腸内に保菌されたりしているだけの状態ではほぼ無害であり、血液中に侵入しなければ重症化はしません。肺炎や血流感染症などを発症していなければ抗菌薬は投与せず、他の患者さんに広がらないように院内感染対策を徹底した上で、経過を注意深く観察とするのが望ましいと考えられます。
国内では、万が一発症した場合に投与できる薬剤がほとんどないのが現状です。欧州や米国では、ポリペプチド系抗菌薬のコリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(商品名:コリスチン)などが使用されていますが、国内では腎毒性や神経毒性があることから注射剤は承認されていません。
このほか、治療薬としては、耐性能の程度や患者の病状にもよりますが、アンピシリン、スルバクタムやリファンピシンなどの複数の抗菌薬を組み合わせて投与したり、チゲサイクリンを使用すれば対処できる可能性があるようです。
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