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インフルエンザ経鼻ワクチンは、不活化全粒子ワクチンを経鼻接種することで、自然感染と同様に鼻粘膜にIgA抗体が誘導させ、感染防御、交叉防御の両効果が得られることを目的として開発中のワクチンです。経鼻ワクチンは、各種の動物実験で流行予測が外れた場合でも感染を阻止し、予後を改善することが示されました。
現行の季節性インフルエンザワクチンは、発症や重症化を抑制できても、感染そのものを予防する効果には限界があり、新型インフルエンザのパンデミックで流行株を予測することは難しいため、流行株予測に基づいたパンデミックワクチンの効果もあまり期待できません。そのため感染防御能に加え、流行株が完全に一致しなくても有効な、交叉防御能を併せ持つワクチンの開発が強く望まれています。
自然感染によって誘導される免疫は、不活化ウイルスの注射で得られる免疫よりも、変異ウイルス感染に対する交叉防御能が高いことが、50年近く前から知られています。また、インフルエンザウイルスの自然感染で誘導される交叉防御免疫には、気道粘膜上に分泌されるIgA抗体(分泌型IgA抗体)が深く関与し、粘膜上のウイルスを中和し、感染を阻止すると考えられています。
一方、インフルエンザウイルスが粘膜表面に感染すると、粘膜上への分泌型IgA抗体誘導と並行して、血中においてIgG抗体である中和抗体が誘導されます。しかし、この血中の中和抗体は、肺におけるウイルス増殖を抑制して、肺炎を防止するものの、上気道のウイルス増殖は阻止できないことが、ごく最近の研究で明らかとなっています。
したがって、鼻粘膜上にIgA抗体を誘導することが重要で、それを可能にするワクチンであれば、感染防御効果、交叉防御効果を得ることができると推測されます。
米国では弱毒性生ウイルスを用いた経鼻ワクチン(フルミスト)が開発され、すでに欧米で接種が行われています。ただし、生ワクチンであるため、安全性を考慮し、対象が2〜49歳の健常者に制限されており、インフルエンザで重症化するリスクの高い乳幼児(2歳未満)や高齢者には使用できないことが課題となっています。
その現状を受け国立感染症研究所では、より安全な不活化(全粒子)ウイルスを用いた経鼻ワクチンの開発を進めています。IgA抗体の誘導をより強めるために、アジュバント(合成二本鎖RNA製剤polyI:polyC12U)を併用する方法です。
経鼻ワクチンは、パンデミックが起こる前に準備することができる。季節性インフルエンザのワクチンとしてだけでなく、パンデミックに備えるワクチンとしても実用化が待たれています。
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