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甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone:TSH)は、下垂体前葉で合成・分泌されるαとβの二つのサブユニットからなる分子量28.3kDaの糖蛋白です。αサブユニットはTSHだけでなく他の下垂体前葉ホルモンである、黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホルモン(FSH)、および胎盤性性腺刺激ホルモン(CG)と共通です。ヒトのαサブユニットは92個のアミノ酸残基からなり、βサブユニットとのジスルフィド結合に関与するシステイン残基を10個含みます。また、アスパラギン残基には2か所に糖鎖(N-linked)がついています。
一方、βサブユニットはホルモンごとにアミノ酸配列が異なり、それぞれのホルモンに特異的な生物活性を発揮させます。ヒトのTSH-βサブユニットは112個のアミノ酸残基からなり、一つの糖鎖がついています。糖鎖はマンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸などからなっており、TSHの安定性や生物活性に関与するものと考えられています。また、TSH-βサブユニットのみでは生物活性はなく、αサブユニットとの重合がTSHの生物活性の発現には必須です。
血中に分泌されたTSHは甲状腺に達し、細胞膜表面のTSH受容体に結合します。TSH受容体は膜7回貫通型のG蛋白質共役型受容体に属していますが、N端の細胞外領域は比較的長く、TSHの結合やバセドウ病の原因である抗TSH受容体抗体IgGの結合に重要です。TSH受容体が刺激されると、主にアデニルサイクラーゼ-サイキックAMP系が活性化され、甲状腺へのヨードの取り込み、チオグロブリン合成促進、ヨードの有機化、ヨードチロシンの縮合などが促進され、甲状腺ホルモン合成が高まり、また、甲状腺ホルモンの分泌も促進されます。
血中TSHの測定は甲状腺機能の評価に最も鋭敏な検査です。血清TSHの値と甲状腺ホルモン(FT4、FT3)の測定値を併せて評価することにより、甲状腺機能異常を起こす病態が推定できます。TSHは、視床下部ホルモンであるTRHの分泌により刺激され、甲状腺ホルモンにより抑制を受けます。
検査材料:血清
測定方法:CLIA
基準値:単位(μIU/mL)0.436〜3.78
・高値を示す病態:原発性甲状腺機能低下症、クレチン症、下垂体性TSH産生腫瘍、異所性TSH産生腫瘍、慢性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎
・低値を示す病態:甲状腺機能亢進症、バセドウ病、亜急性・無痛性甲状腺炎の急性期
TRH:甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone)は、視床下部の室傍核で合成され正中隆起に達し、か下垂体門脈を経て下垂体に作用します。TRHは下垂体のTRH受容体のに結合し、ホスファチジルイノシトール4.5-二リン酸(PIP2)を分解し、イノシトール1.4.5-三リン酸(IP3)およびジアシルグリセロール(DAG)を増加させます。それぞれIP3は細胞内Ca2+の動員を引き起こし、DAGは蛋白質キナーゼCを活性化し、TSHの合成・分泌を促進します。さらにTRHは、TSHに付加している糖鎖の構成を変化させ、生物学的活性に影響を及ぼしています。
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