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甲状腺ホルモン不応症(Resistance to Thyroid Hormone:RTH)は、甲状腺ホルモンに対する標的臓器の反応性が減弱している家族性症候群として1967年、Refetoffらによって初めて報告された疾患です。その後、RTH家計の約85%においてT3受容体(TR)β遺伝子に変異が同定されることから、ほとんどのRTHはβ変異が病因と考えられています。TRβ変異の発症頻度は、新生児スクリーニング検査結果より4万人に1人と推定され、国内では約3,000人程度が罹患していると予測されていますが、報告例は100人程度にとどまっています。
日本甲状腺学会の臨床重要課題「甲状腺ホルモン不応症の診断基準作成」委員会ではRTHを「T3作用機構上の何らかの異常により組織の甲状腺ホルモンに対する反応性が減弱し、SITSHを示す症候群」と定義し、診断基準作成に取り組んでいます。その背景として「FT4とFT3が上昇している理由で、RTH症例に対してバセドウ病をはじめとする甲状腺機能亢進症として不適切な治療を行っている症例が後を絶たない」という事実があります。このため、委員会では「RTHに対する不適切な治療を防止すること」も診断基準作成の目的の1つに挙げています。
不適切TSH分泌症候群(Syndrome of inappropriate sercretion of TSH:SITSH)とは、血液甲状腺ホルモンレベルの指標となるFT4が高値であるにもかかわらず、TSHが抑制されていない状態です。多くの場合FT3も高値となりますが、これは必須ではありません。SITSHを引き起こす代表的疾患としてRTHやTSH産生腫瘍があります。SITSHはFT4・TSHの値を基に診断されますが、一過性にSITSH様の検査所見を呈したり、自己抗体や投与薬物の影響で見かけ上SITSHと思われる検査結果が得られる症例があるため、これらを慎重に除外する必要があります。
・SITSHの検査所見を呈する症例に遭遇した時の注意点
1)甲状腺機能が比較的短期間に変動する場合
血中TSH濃度はFT4の変化にやや遅れて変動する為、FT4値とTSH値の間に一過性の乖離が生じることがあります。たとえば、破壊甲状腺炎やバセドウ病再発の初期においてはこのような乖離が生じやすい。
2)TSH・FT4測定に何らかの干渉が加わった場合
抗FT4抗体、抗TSH抗体や異好抗体により異常値を示す場合があるため、可能であればFT4やTSHの再検査を実施する際には、複数の検査キットを用いて測定することが望ましい。
3)甲状腺機能低下症に対し合成T4製剤(LT4)による補充療法を施行している症例
LT4投与中に、FT4が上限を超えるものの、FT3・TSHは正常範囲内にとどまる。この状態は「真のSITSH」からは除外する。
4)家族性異常アルブミン性高サイロキシン血漿の症例
国内では非常にまれですが、T4ni対する親和性が遺伝的に異常に高いアルブミンを有する患者では、市販のFT4測定キットを用いた場合に偽高値を示すケースが多い。
委員会では、SITSHを呈する症例に遭遇した際に「真のSITSH」を鑑別するため、再検査を1か月後以降に、さらに3か月後に行い、これら再検査の際、可能なら検査方法を変えて検査する」ことを奨励しています。
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