皮膚マイクロバイオームと疾患

体表全体を覆う皮膚は、成人で面積が約1.6m2、重量は全体重の16%を占めている人体で最大の臓器です。皮膚のマイクロバイオームを考えるうえで重要なのはその基本構造と、腸管とは異なる透過性です。皮膚の表面には汗管が直接開口し、汗が分泌されます。汗の99%は水で、塩化物と乳酸・尿素などの老廃物、抗菌ペプチドなどを含んでいます。一方、毛穴に開口する脂腺からは脂質が分泌され、トリグリセリドは毛包内に存在している細菌などが出すリパーゼで分解され、遊離脂肪酸として分泌されます。これらの脂質で構成される酸性の皮表脂質フィルムは、外界からの化学物質の干渉作用や感染の防御に働くと考えられています。さらに表皮では、角質細胞がレンガ状に積み重なっていて、ヒトの表皮は外界からの物理的な刺激に耐え、病原体やアレルゲンの侵入を防ぐために二重のバリアを備えています。角質の隙間を埋める細胞間脂質からなる角質バリアと細胞間の隙間をシールするタイトジャンクションからなるバリアです。このようなバリアを透過できる分子は、おおよそ分子量が500Da以下の分子に限定されます。500Daの分子はおおよそ1.3nm以下となるため、皮膚細菌、蛋白などが定常状態で直接真皮に透過することはありません。

アトピー性皮膚炎におけるdysbiosisと黄色ブドウ球菌の病原性
アトピー性皮膚炎は乳児期以降に発症する強いかゆみと慢性湿疹を特徴とするTh2型の皮膚炎です。アトピー性皮膚炎になぜ特異的に黄色ブドウ球菌が生着・増殖するのかは、マイクロバイオーム研究が盛んになる以前、かなり古くから知られています。このように正常なマイクロバイオームが乱れることをdysbiosisといいます。アトピー性皮膚炎の皮膚でdysbiosisが起こる原因として、抗菌ペプチドの発現が減弱していることが黄色ブドウ球菌の生着に影響しているのではないかと考えられていますが、いまだ詳細は不明です。
ある研究グループによると、黄色ブドウ球菌のPSMファミリー病原因子の発現がアトピー性皮膚炎の皮疹の憎悪因子の1つとなることが見いだされ、これらの毒素は自身のの生息密度感知して遺伝子を制御するクオラムセンシングによって調節を受けていることがわかりました。バクテリアの細胞間コミュニケーションで有名なのがクオラムセンシングと呼ばれる同種菌の生息密度を感知する機構です。黄色ブドウ球菌のクオラムセンシングでは、オートインデューサーと呼ばれるフェロモン様の物質を細胞外に分泌し、自身で感知することでその生息密度を把握します。また、乳児コホート研究の解析結果からは、健常な皮膚では黄色ブドウ球菌のクオラムセンシングを変異によって機能喪失させることにより、この細菌を排除していることが明らかになりました。最近ではクオラムセンシングをターゲットにしたアトピー性皮膚炎の治療法の開発も試みられています。

皮膚マイクロバイオーム解析

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このページは、が2022年7月 6日 20:12に書いたブログ記事です。

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