多くの動物種において好塩基球が存在し、進化の過程で保存されたという経緯を鑑みると、好塩基球が元来アレルギーを引き起こすために存在するとは考えにくく、生体にとって有利な反応を導く存在であると考えるのが自然です。
寄生虫感染では、血清IgE値の上昇や好酸球浸潤を含むTh2型免疫反応が強く誘導され、血中の好塩基球増多や寄生虫感染局所への好塩基球浸潤もしばしば観察されます。しかし、好塩基球が寄生虫排除に寄与するという直接的な根拠はこれまで示されていません。最近の研究で外部寄生虫の1種であるマダニに対する生体防御に好塩基球が大きな役割を果たすことが明らかになりました。
マダニ(Haemaphysalis longicorinis)は吸血性のダニであり、ヒトや動物の皮膚に寄生して吸血するだけでなく、ウイルス・細菌など病原体を伝播し宿主に注入することで、ライム病や紅斑熱などの重篤な感染症を引き起こします。特にわが国で社会問題となった重症熱性血小板減少症候群(SFTS)も原因ウイススをマダニが伝播する致死的感染症であり、記憶に新しいところです。その一方多くの動物でダニに対する耐性獲得が報告されています。1度ダニに感染した動物は2度目の感染に対して抵抗力を獲得し、その結果2度目に寄生したダニの吸血量が減少します。それに伴いダニが媒介する病原体の感染頻度も低くなります。したがって、この耐性獲得のメカニズムが明らかになれば、寄生虫感染症の予防的あるいは根本治療法の開発につながる可能性が示唆されましたが、これまで耐性獲得にかかわる細胞・分子に関してはよくわかっていませんでした。
マウスのダニ感染モデルにおける好塩基球の役割を検討した結果、1度目の感染ではダニの吸血部位に好塩基球の浸潤は認められないものの、2度目の感染では皮膚に挿入されたダニの吸血口器を取り囲むように多数の好塩基球が浸潤・集積していることが観察されました。好塩基球を特異的に除去できるMcpt8マウスを利用して、ダニ吸血部位に浸潤してくる好塩基球の役割が研究され、2度目のダニ感染前にジフテリアトキシンを投与して好塩基球を除去しておくと、ダニ耐性が完全に消失したことから、マウスでのダニ耐性獲得に好塩基球が必須の役割を果たすことが証明されました。1度目の感染でダニ感作されたマウスの体内では、ダニに対する抗体(特にいgEクラス)が産生され、2度目の感染ではこの抗ダニIgEで武装化された好塩基球がダニ感染部位に集積することで、ダニ耐性が獲得されるものと推測されます。