好塩基球の役割 IgE依存性慢性アレルギー炎症

IgE依存性慢性アレルギー炎症(IgE-mediated chronic allergic inflammaition:IgE-CAI)※1は、あらかじめマウスに抗原特異的なIgEを静脈内投与
(受動感作)しておき、後から抗原を耳介に皮内投与することで誘導できるマウス皮膚アレルギー炎症モデルです。
抗原を投与すると、まず2相性の即時型耳介腫脹(30分以内に起こる第1相と6〜10時間後に起こる第2相)が認められます。その後さらに観察を続けると、3〜4日後をピークとする強い遅発型耳介腫脹(第3相)が出現します。
病理組織像は好酸球・好中球浸潤や表皮の角化・肥厚といった慢性アレルギー炎症の様相を呈し、一連の遅発型反応はIgEと抗原に依存的なことから、これをIgE-CAIと定義しました。当初の予想に反して、この慢性アレルギー炎症は肥満細胞欠損マウスやT細胞欠損マウスでも誘導されることから、肥満細胞やT細胞とは異なる細胞が責任細胞であることが強く示唆されます。

重要なことに、ジフテリアトキシンの投与によって好塩基球のみを特異的に除去できるマウス(Mcpt8※2)において、抗原投与前に好塩基球を除去しておき、IgE-CAIの誘導を試みると遅発型耳介腫脹は全く生じなかったことから、好塩基球がIgE-CAIを引き起こす責任細胞であることが明らかとなりました。
一方、興味深いことに、皮膚炎症がある程度進行した段階(抗原投与の2日後)で好塩基球を除去した場合でも、耳介腫脹ならびに好酸球・好中球浸潤は著しく軽減しました。これらの結果は、好塩基球がアレルギー炎症のエフェクター細胞というよりはむしろイニシエーター細胞として機能することを強く示唆しています。すなわち、IgEと抗原で活性化した少数の好塩基球がサイトカインやケモカインなど液性因子を産生し、これらが直接的あるいは間接的に作用して多数の好酸球や好中球を浸潤させる仕組みが考えられます。また、これらのマウスにおけるIgE-CAIの実験結果から、好塩基球の機能抑制が慢性アレルギー炎症の根本的治療につながる可能性が示唆されました。

※1:東京医科歯科大学大学院総合研究科免疫アレルギー学分野で開発
※2:Mcpt8マウス 好塩基球特異的プロテアーゼmMcp-8をコードするMcpt8遺伝子座にジフテリアトキシン受容体(diiphtheria toxin receptor:DTR)遺伝子を挿入した遺伝子改変マウス。このマウスは好塩基球のみにDTRを発現するため、ジフテリアトキシンを投与することで、好塩基球を生体内から特異的に除去できる。マウスの細胞はDTRをもたないので、他の細胞は通常ジフテリアトキシンの影響を受けない。

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このページは、が2022年6月 8日 00:49に書いたブログ記事です。

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