多くの動物種において好塩基球が存在し、進化の過程で保存されたという経緯を鑑みると、好塩基球が元来アレルギーを引き起こすために存在するとは考えにくく、生体にとって有利な反応を導く存在であると考えるのが自然です。
寄生虫感染では、血清IgE値の上昇や好酸球浸潤を含むTh2型免疫反応が強く誘導され、血中の好塩基球増多や寄生虫感染局所への好塩基球浸潤もしばしば観察されます。しかし、好塩基球が寄生虫排除に寄与するという直接的な根拠はこれまで示されていません。最近の研究で外部寄生虫の1種であるマダニに対する生体防御に好塩基球が大きな役割を果たすことが明らかになりました。
2022年6月アーカイブ
近年の研究で、好塩基球が急性アレルギー反応である全身性アナフィラキシーの誘導にも重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
アナフィラキシーは、急激な血圧・体温低下・呼吸困難・意識障害をきたす全身性の重篤なアレルギー反応であり、この反応はIgE、肥満細胞、ヒスタミンを介する誘導経路が昔からよく知られています。ところが、さまざまな動物実験モデルの解析から、この古典的経路では説明できない肥満細胞比依存的なアナフィラキシーが存在し、これにはIgEではなくIgGを介する誘導経路が重要であることが明らかになりました(IgG依存性アナフィラキシー)。
好塩基球は慢性アレルギー炎症を誘導・憎悪させる”悪玉細胞”であると考えられていましたが、最近好塩基球が慢性アレルギー炎症を抑制する”善玉細胞”としての機能を合わせもつことが明らかになりました。好塩基球は単球のマクロファージへの分化を抑制することで、慢性アレルギー炎症を抑制することもできます。
単球は血中から皮膚などの抹消組織に入るとマクロファージへと分化します。マクロファージにはM1型、M2型といった2つのタイプが存在し、一般にM1型マクロファージは炎症の誘導や憎悪に寄与するのに対し、M2型マクロファージは炎症の抑制や組織の修復・恒常性維持にかかわることが知られています。
IgE依存性慢性アレルギー炎症(IgE-mediated chronic allergic inflammaition:IgE-CAI)※1は、あらかじめマウスに抗原特異的なIgEを静脈内投与
(受動感作)しておき、後から抗原を耳介に皮内投与することで誘導できるマウス皮膚アレルギー炎症モデルです。
抗原を投与すると、まず2相性の即時型耳介腫脹(30分以内に起こる第1相と6〜10時間後に起こる第2相)が認められます。その後さらに観察を続けると、3〜4日後をピークとする強い遅発型耳介腫脹(第3相)が出現します。
病理組織像は好酸球・好中球浸潤や表皮の角化・肥厚といった慢性アレルギー炎症の様相を呈し、一連の遅発型反応はIgEと抗原に依存的なことから、これをIgE-CAIと定義しました。当初の予想に反して、この慢性アレルギー炎症は肥満細胞欠損マウスやT細胞欠損マウスでも誘導されることから、肥満細胞やT細胞とは異なる細胞が責任細胞であることが強く示唆されます。
好塩基球はその名が示す通り、塩基性色素で好染される顆粒をもつ顆粒球の1種で、抹消血白血球のうちわずか0.5%ほどしか存在しません。1879年ドイツの免疫学者によって発見され、アレルギー病変や寄生虫感染局所で好塩基球の集積が観察されることから、これまでこれらの疾患への関与が示唆されてきました。しかしながら、希少な細胞集団であることや、疾患モデル動物として有用なマウスにおいて、従来法(ギムザ染色など)による好塩基球の同定がこんなんであることが大きな支障となり、好塩基球の研究は後れをとってきました。また、高親和性免疫グロブリンE受容体(high-affinity igEreceptor:FcεRI)を発現し、ヒスタミンなどのケミカルメディエーターを放出する点で、抹消組織に常在する肥満細胞と共通項をもつことから、好塩基球は”血中循環型肥満細胞”と揶揄され、肥満細胞のバックアップ的存在とみなされてきました。