ケモカインの一種であるTARC(thymus and activation-regulated chemokine)はアトピー性皮膚炎の病態を鋭敏に反映するバイオマーカーです。TARC値を治療法選択に反映させることで、再燃リスクを下げたり、患者・家族のアドヒアランスの向上が期待できます。さらに小児では、アレルギーマーチへの移行を予防できる可能性もあります。
TARCは、皮膚病変がなくなった段階で残存する“目に見えない炎症”をも鋭敏に反映することが明らかになり、この数値を指標にした新たな治療戦略が注目されています。
TARCは、特定の白血球を遊走させるケモカイン(白血球走化性因子)の一つで、皮膚病変(表皮角化細胞など)から産生され、リンパ球の一種であるTh2細胞を病変局所に引き寄せてアレルギー反応を亢進させ、症状を増悪させると考えられています。
アトピー性皮膚炎において皮膚病変がなくなってもTARC値が高い段階では外用ステロイドによる治療を継続し、TARC値が正常化した段階でステロイドを漸減していくことにより「再燃率を大幅に減らせるようになった」との報告があります。またTARC値を活用することで、治療法が正しいかどうかの判断もしやすくなるといわれています。
TARC測定のタイミングは?
TARCは、アトピー性皮膚炎の診断マーカーではないことに注意が必要です。薬疹や疥癬、皮膚リンパ腫など、様々な皮膚疾患でも上昇するので、他の疾患を除外し、アトピー性皮膚炎と診断したのちに、病態の把握のために用いるのが一般的です。
年齢によりTARCの基準値は異なります(下記参照)。また、TARCは局所の病変部位から流れ出すケモカインであるため、病変部位が限局している軽症患者では上昇しません。一方、中等症以上の患者では、700pg/mL以上に上昇するので、アトピー性皮膚炎が中等症以上かどうかの判断に用いることができます。また、1万pg/mLを超えるような患者や数千pg/mLを持続している患者は早急に専門医に相談することが必須です。
アトピー性皮膚炎の小児では、年齢が進むにつれ、喘息やアレルギー性鼻炎などの他のアレルギー性疾患を次々に発症する「アレルギーマーチ」が知られています。TARCなどを指標にアトピー性皮膚炎をきちんと治療することで、アレルギーマーチの連鎖を絶てる可能性が報告されています。
※TARC基準値(pg/mL)
小児(6〜12カ月):1367未満
小児(1〜2歳):998未満
小児(2歳以上):743未満
成人:450未満